9.コンサル会社の人事評価制度

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ぼくが新卒で入社したX社には、年に2回の人事評価があった。

X社の人事評価の仕組みが一般的な事業会社と比較してどの様な差異があるのか、コンサル業界から出たことがないぼくには分からない。

ただ、中途で入社した外資系コンサルティング会社であるY社やZ社でも類似の制度を採用していたことから、業界ではスタンダードなものと推察される。

今回は、その評価制度の具体的な中身について解説する。

評価制度の全体像

人事評価は賞与の金額や昇進の是非を決める一大事である。だからこそと言っていいのか、X社のそれは複雑かつ、評価する側・される側の双方にそれなりの負担を強いる仕組みであった。

評価の構成要素は以下の4つである。

  • MBO (Management By Objectives)
  • 稼働率
  • 社内貢献
  • 職位別能力充足度

ぼくたちコンサルタントは、半年毎にこれらの物差しで働き振りを評価された。

それぞれについて以下で解説する。

MBO

MBOの仕組み

MBOは、日本企業が年功序列から成果主義に切り替わるタイミング(1990年代の後半あたりから)で屡々採用されるようになった評価制度であり、期初に於いて社員自らに職位に合った目標を設定させ、期末にその目標の達成度を上司と一緒に確認し、評価を受ける仕組みである。

文章にするとあっさりとしたものだが、やるとなると大変だ。

具体的には以下の手続きが必要になる。

  1. 目標設定
  2. 目標設定面談
  3. 自己評価
  4. フィードバック面談

上記の1,2は期初に行われ、3,4は期末だ。

先に書いてしまうと、最終的な評価は「MBOで設定した目標を達成できたか」よりも「総合的に見てPJに貢献したか」によって決定されるきらいがある。

それが周知の事実であったからこそ、形ばかりのMBOに対して批判的な声は方々からあがっていた。

実際に、「面倒くさい」、「PJは生き物なんだから、半年も目標を固定するなんて非現実的」、「半年前に立てた目標なんて覚えてない」等々の声は、ぼくたち若手からも勿論であるが、特に評価する側とされる側の両方の役割が課せられている中間管理職からあがることが多かったように記憶している。

どこで誰が聞いているかわからない社内で、容易に隙を見せないマネージャー陣が開けっぴろげに不平不満を口にしていたことを鑑みるに、彼らの負担感は余程のものであったのだろう。

期初対応

まずは、どのようにして目標を定めるかについて記す。

X社には、ランク(ペーペであるアナリストやジュニアコンサルタント、チームリーダー級のシニアコンサルタント、管理職であるマネージャー等)と目標領域(ドキュメンテーション、マネジメント、クライアントフェーシング等)を掛け合わせた、巨大な目標目録があった。

社員はその目録の中から自分のランクと仕事で求められる内容に応じて3つほどの目標を選択し、アサインされているプロジェクトに合わせてその内容を具体化する。

例を挙げるとすると、ドキュメンテーションにおけるジュニアコンサルタントの目標は「上長の指示に従い、抽象的な内容を構造化・具体化しドキュメントに落とし込む」だったとしよう。
(流石にここら辺の内容に関してはぼくの記憶もあやふやなため、だいたいのイメージと思っていただきたい)

MBOの作法として、目標は具体的かつ測定可能であることが求められる。
その前提で、この目標をぼくが採用するとしたら以下のように書く。

【J-Consultant:ドキュメンテーション】
上長の指示に従い、抽象的な内容を構造化・具体化しドキュメントに落とし込む。具体的には、週次定例における担当パートのページを完成度8割以上、かつスケジュールに余裕をもって自力作成する。

前半部分は目標目録のコピペだが、評価するPMは目録の中身なぞ覚えていないので、書いておく方が親切だ。勿論、嵩増しになるになるという意味もある。

後半の文章は前半を具体的かつ測定可能な内容に落とし込んだものである。

「完成度8割」や「スケージュールに余裕をもって」という文言が具体的かつ測定可能かと訊かれると唸ってしまうが、これくらいの書きぶりでも特にツッコミを受けたことは無いので問題はない。

上記の様な目標を3つほど設定したら、後はPMとのミーティングをセットして細部をすり合わせることとなる。

ひとつ補足すると、目標は自分のランクの1つ上のものを設定しても良い。

つまり、アナリストならジュニアコンサルタントの、ジュニアコンサルタントならシニアコンサルタントの目標と言う意味だ。

ただし、その場合は「ジュニコンがシニコンの目標をクリア出来るわけがない(もし出来るなら、なぜこの人はジュニコンなのだ)」というバイアスがかかるせいか、評価が非常に辛くなる傾向があった。

それを知っていたからこそ、ぼくはこの目標設定で変な色気や攻めっ気を出すことはしなかった。

余談 – 研修期間の目標設定

期末対応の話をする前に、ここで余談をひとつ。

新卒入社してすぐの頃、このMBOの仕組みを使って研修中の目標設定をするというタスクがあった。研修の目標なんて、有体に言えば研修内容を吸収する以外にないのだが、それでは話が終わってしまう。

そこでぼくは、クライアントフェーシングの領域にあった「コンサルタントとして安定的にバリューを提供し、クライント及びプロジェクトメンバーに安心感を与える」みたいな内容の目標をアレンジし「社会人として無遅刻無欠席で研修に臨み、研修講師及び同期に安心感を与える」という目標を設定した。

設定した内容は同じ研修班の同期からのフィードバックを受けて修正し、その後に提出する流れだったのだが、案の定と言うか、ぼくのこの目標は意識の高さを隠さない新卒ホヤホヤの同期たちから「ふざけているの?」、「無遅刻無欠席なんて、小学生かよ!」とボロカスにバッシングされた。

しかし、「じゃあおまえらは全員、この研修中無遅刻無欠席なんだな?」と問い返すと、一緒の班だった5人中2人が既に一度遅刻していたこともあり、彼らのトーンは一気にダウンした。

遅刻欠席をしないというのは当たり前のようでいて、その当たり前を完ぺきにこなすのは意外と難しいのである。

期末対応

閑話休題。

半期の最終月、つまり3月と9月になると、X社の社員は全社メールでMBOの自己評価と上長面談をするように促される。

評価は以下の5段階である。
(もっとかっこいい横文字の評価名称だった気がするが、覚えていない。意味としては上記の通りである)

S:求められている以上に出来た
A:完璧に出来た
B:必要十分な水準で出来た
C:一部出来なかった
D:全然出来なかった

ぼくはほぼ全ての自己評価を上から真ん中のB評価にしていたが、それは「もしPMの評価がそれ以上の場合はフィードバック面談で言ってくれるだろう。一方で自分でC評価以下をつけてそのまま受理されては損だ」と考えていたからである。

実際に、目標としてはすべてがほぼ完ぺきに達成出来たと感じたこともあったが、それでもしおらしく、設定した3つの内1つだけA評価とし、他2つをB評価にして提出したことがあった。

ぼくの期待としては、Aとした評価はそのまま受理され、残り2つも「いやー、ちゃんと出来てたし1番上を付けてもいいんじゃない?」とPMが言ってくれることであったが、現実はその真逆となった。

つまり、「目標は確かに達成できていたけど、総合的に見ると期待値を達成できていない」との理由により、3つの目標全てをB評価にされてしまったのである。

総合的な評価で個別に設定した目標の達成度が評価されるのであれば、そもそも個別に目標を立てる意味は皆無である。

一事が万事この調子だからこそ、評価する側からもされる側からも、MBOは不評であった。

MBO代わる評価制度

ここまで散々MBOの悪口を書いたが、コンサル2社目となるY社ではMBOの問題点を自覚してなのか、ちょうどぼくが転職したタイミングで評価制度をMBOから「ノーレーティング」と呼ばれるものに移行した

ノーレーティングとは期毎の目標設定やフィードバックを廃止し、代わりに日常的に上司が部下に期待値やフィードバックを伝える仕組みである。

これにより、目標を半年間固定する必要は無くなるし、PMの期待値とメンバーの働きぶりに乖離があればその都度軌道修正が可能となる。

形式はカッチリしていないし場合によってはコミュニケーションコストも増大するが、やりようとしてはこちらの方が余程現実的だ。

それに評価の仕組みは至ってシンプルである。
期末になると上長は、配下のメンバーを「お金を払っても雇いたいか」、「次の案件でも一緒に働きたいか」の2点においてのみ、3段階で評価して会社に提出する。

結局、大切なのは目標を達成したかどうかではなく上記の2点なのだ。

然るに、実際的な意味においても柔軟かつスピーディに状況に対応できると言う意味でも、MBOに比べてノーレーティングの方がコンサルティングワークという流動的な仕事の評価制度としては適しているというのが、ぼくの実感である。

MBO以外の評価基準

人事評価の仕組みは、MBO以外に稼働率、社内貢献、職位別能力充足度の3つがあると記した。それは間違っていないが、MBOがPJでの働きぶりを測るものである以上、比率としてこれら3つはそこまで大きくない。順に説明していこう

稼働率

稼働率とは、当該期間におけるPJに参加していた割合、言い換えればクライアントに単金を請求出来た割合であり、MBOが社員の質的評価指標とすると、稼働率は量的な指標と言えた。

半年を120営業日とした際、仮に96日間プロジェクトに参加していたとしたら、96/120で稼働率は80%となる。(実際には残業した場合はその分だけ分子が増えたり、有給を取れば分母から控除されたりといろいろ複雑なのだが、詳細な説明はここでは省く)

コンサルタントは常にPJに参加出来るわけではなく、評価が低くお声が掛からないような人は本社で自主勉強や手伝い仕事なんかをさせられる。非管理職のメンバーにとって、稼働率はどれだけ自分が売れっ子であるかを示すバロメータなのだ。

ちなみにだが、自分で案件を獲得しなければならなくなる管理職の場合は営業活動を行っている期間が稼働率に含まれないため、自身の営業力を示す指標とも言える。

稼働率とはつまるところ売上であり、コンサルタントにとってのノルマなのだ。

社内貢献

社内貢献とは、PJ以外でどれだけ会社(部署)に貢献したかを測るものである。

社員の最終的な人事評価は先述のMBOにこの社内貢献を加味して最終化される仕組みであったが、コンサルタントの本分がPJでの貢献である以上、ウェイトは全然違う。

つまり、この社内貢献は「MBOで同じだけの評価を受けたふたりのうち、予算の関係上ひとりしか昇進させられない時に参考にする」程度の意味しかなく、それこそ社内での評価を高めようと思えばMBO(=PJでの評価)の方が遥かに大切であった。

中身としては、研修の講師を務めたとか、会社の指示で資格を取ったとか、今後売り出せそうなソリューション開発を行ったとかが評価の対象である。

非PJ系の評価を受けるために、社員は自分が過去半年に行った上記に類する活動を列記して提出するのことになる。

その内容次第でMBOで受けた評価が補正されるわけだが、先ほど述べた理由により、この社内貢献をガツガツやって点を稼ごうという人は奇特な人はいなかった。

職位別能力充足度

X社には「ランク毎、領域毎に有していることが期待される能力」を定めた、これまた巨大な一覧があった。(こういった目録は一定規模以上のコンサル会社であればどこにでもある)

MBOの目標目録との比較で言うと、あちらが目標(行動)の切り口で記述されているのに対して、こちらには能力の切り口で自社の社員のあるべき姿が記述されている。

X社では、過去2回の半期評点(MBO評価を社内貢献の点数で補正したもの)が一定以上かつ、この能力要綱に記述されている十数個に及ぶ各領域において、当該社員が昇進後のランクで求められる能力を有していると認められると、晴れて昇進することが出来る仕組みとなっていた。

とは言え、こちらはMBOと異なり、自分の目標充足度はどれくらいなのかとか、何割の目標をクリアすれば昇進できるのかとか、そういった具体的な説明は被評価者であるぼくたちには一切知らされなかった。

どうにも、会議室でお偉方が下々の能力を評価して昇進の是非を決めるのに使っていたようだが、実情が分からない以上、この職位別能力充足度に対するぼくたち非管理職社員の興味・関心は薄かった。

 

今回の話をざっくりとまとめると、X社の人事評価の制度は中々に複雑であったが、結局のところPJで活躍したかどうかが大事という、身も蓋もない話に落ち着く。

ここまでを踏まえて、次回の記事ではぼくがファーストアサインでどのような評価を受けたかについて記そうと思う。

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