前回の記事でぼくが勤めていたコンサル会社ではどのように人事評価が行われるかを解説した。
今回はその仕組みをもとに、ぼくが最初のPJ評価でどのようなフィードバックを得たかについて話をする。
ファーストアサインの自己評価
ぼくの最初のプロジェクトは1年目の8月から、途中リリースとなった翌年の3月までであった。(途中リリースとは、PJは続いているが、その人の参画としては終了の意味)
人事評価は、4月-9月の上期と10月-3月の下期に分けて行われるのだが、上期は半分以上が研修期間だったため、入社1年目のPJ評価は年度末に上期下期を合わせたものとして行われた。
PJ評価は、まず被評価者にて期初にMBOで設定した目標の自己評価を行い、その内容を基にPMとの1対1のフィードバック面談を行うという流れである。
PJアサイン時点で、ぼくは(例によって記憶が曖昧なためおおよそではあるが)以下の3つの目標を設定していた。
ドキュメンテーション:誤字脱字や論理構造に注意を払い、一読して意味が理解できる資料・文章を作成する。
コミュニケーション:プロジェクト課題が発生した際に社内外のステークホルダーと協力して課題解決を行えるよう、PJ関係者との良好な関係を構築する。
システム:MS Officeの各種アプリケーション及びSAPへの理解を深め、各種ツールを適切に利用することでPJを円滑に推進する。
ひとつ目の目標、誤字脱字を無くすなぞは社会人として当たり前だと思うかもしれないが、入社1年目相当の目標として件のMBO目録に(もう少し抽象的な内容で)記載があったため、当時の目標設定としてはおかしくなかった。
ふたつ目とみっつ目の目標に関しては、PJで与えられた役割を果たすための前提に関する部分である。つまり、PJでちゃんと役に立ててれば自然とクリアできる目標と言えた。
これら3つの目標に対して、ぼくはすべて真ん中のBを自己評価とした。
誤字脱字を含んだメールを送るようなミスは一度も無く、そういう意味でひとつ目の目標についてはA評価をつけてもよかったのだが、ぼくは先輩の命令とは言え業務時間中に転職サイトを漁っているような人間である。
PJにさしたる貢献できていなかった自覚と、なんとなく、PMからあまり快く思われていないような気がしていたこともあり、様子見のつもりでBを付けたのだ。
PMからのフィードバック
B評価、だけど「お客さんの前に出したくない」
結果として、しおらしくBにしておいて正解であった。
フィードバック面談でPMの口から出たのは以下の発言である。
「目標の達成度は俺もBだと思う。だけど、態度や言葉遣いに問題があるし、日々のコミュニケーションも、もう少しちゃんとして欲しかった。それにキミ、誠実じゃないよね。正直、もうお客さんの前に出したくない」
このコメントにはいつも馬耳東風かつ泰然自若で通していたぼくも、流石にショックだった。
態度、言葉遣いに問題あり
態度や言葉遣いに問題があるという指摘は、それまでPMから一度もされていなかったので寝耳に水であった。
むしろ、学生から社会人になりたてということもあり、どの程度丁寧な口調・文調でコミュニケーションすればいいかわかっていないところがあったため、周囲を観察した結果の「恐らくこれくらいでいいだろう」というラインから、更に丁寧寄りの言葉遣いをしていたつもりだった。
そのため、「丁寧過ぎってことですか?」と思わず聞き返してしまいそうになったが、PMの雰囲気からそうじゃなさそうだと察して口を噤んだ。
その意図は、この面談から暫く後にあった、飲みの席で明らかになった。
参加者はぼくとPM、それに博士先輩とワンさんの4人で、この時がPJメンバーで行った最初で最後の飲み会であった。
会は最初和やかな雰囲気だったが、全員のグラスが3杯目に差し掛かる頃、PMが何の脈絡も無しに口を尖らせた。
「前からちょくちょく気になってたけどさぁ……キミって考えが浅いよね。そんなんだから何もわかってないくせに、『この2つの帳票が分かれてるのおかしいですよね』なんて見当外れなこと言うんだ」
PMが馬鹿にしたような声色を使って口にしたセリフは心当たりのあるものだった。
アサインされてひと月ほどが経ち、PJにも慣れ始めた頃の話である。
その時のぼくにはSAPの動作確認をするというタスクが割当てられていた。
マニュアルに沿って順調にシステムを動かしていたぼくだったが、あるポイントでそれ以上先に進めなくなってしまった。
普段は現場にいないことが多いPMだがその時はちょうど近くにいたものだから、ぼくはどうすればいいか何の気なしに質問をしたのだ。
PMはPCの画面を見ると一目でぼくが何に躓いていたのか分かったらしく、どうすれば先に進めるのかを実演して見せてくれた。
ぼくが操作できなかったのは、単純にマニュアルにその部分の内容が記載されずに省略されていたからである。
どうすればよいかは分かったものの、しかし教えてもらった操作はかなり分かりにくく直感に反するような内容だったので、ぼくは思わず「これ分かりにくいですよね。わざわざ画面遷移しますけど、分かれてる2つの帳票が1つにまとまってれば分かりやすいのに、合理的じゃない気がします」と、無邪気なことを言ってしまったのだ。
その時のPMは面食らったように固まって、何も言わずに息だけ吐くような反応を示したが、心の中では「何もわかってないくせに生意気なこと言うな」と憤りを覚えていたのだろう。
それが飲み会での発言、延いてはネガティブなPJの評価に繋がってしまったのだ。
「見当外れだと思ってたなら、その時に指摘してくださいよ。それを何か月も経ってからグチグチと、あまつさえ酒の力を借りて口にするなんて情けない!」
飲み会の席で唐突に詰られたぼくは、酔いに任せてそのように言い返してやろうかと一瞬思ったが、勿論そんなことはせず、何のことかわらからず戸惑った様子を見せていた先輩ふたりを横目に沈黙を保ってやり過ごした。
コミュニケーション怠慢
「日々のコミュニケーション」に関しては、フィードバック面談の中で具体的にどこが悪かったかの説明があった。
前提として、PMはこの案件への稼働率が10%だったため、現場にいないことが多い。
そのため、一番下っ端であるぼくはPJで何が起きているのかを毎日報告して欲しいと依頼されていたのだ。
また、業務終了のタイミングで報告を貰っても指示を出しにくいから、午前と午後で日に2回の報告をして欲しいとも言われていた。
この報告を屡々怠ったことが、ここでの指摘事項だった。
ぼくが報告を怠ったのは、故意によるものであった。
何故そのような命令違反をしたかと言えば、仕事が無い領域にぼくと博士先輩、ワンさんの3人が張り付いている都合上、やることが無くて自分の実績として報告できるような内容が無い日が多々あったためである。
それならばそれで「本日は特に対応すべき課題やタスクはありませんでした」と一文送れば済む話なのだが、当時のぼくは暇だと思われたら余計な仕事を押し付けられるんじゃないかという妙な警戒感を持っていて、素直にそう伝えられなかったのだ。
PMから追加で仕事を振られようとも、評価に一切繋がらない博士先輩の転職先探しをするよりかはマシなはずだったのだが、ぼくはどうしてかそのように考えられなかったのだ。
故意に報告を怠っていたとは言え、最初の職務怠慢は過失によるものだった。
ある日、ぼくは午前の報告を忘れてしまったため、午後にまとめて報告をしたのだ。
そのことについて特にPMから指摘が無かったことと、動きのないPJにあって、1日に2回も報告をするのは無駄ではないかという気がしていこともあり、その日を境にぼくは報告の頻度を徐々に1日1回へと落としていった。
無論、ちゃんと報告しろと指示が飛んでくれば、ぼくはすぐにでもそうするつもりだった。
しかしながら、報告頻度を1日1回にしても特にPMからの指摘は無く、そうなるとだんだん、「報告は報告すべき事項が発生した時だけにすればよいのでは」と手前勝手な解釈をするようになっていった。
そうして1日に1回の報告すらしない日が徐々に増えていき、それでもPMからの指摘が無かったためぼくは完全に油断していた訳だが、その報いをPJ評価という形で受けることとなったのだ。
不誠実な勤務報告
「誠実でない」との評価はどこを切り取ってのものなのか断定はできないが、恐らく残業代のことを指して言っているのだろう。
残業代は15分単位で、月に45時間までつけられる決まりになっていた。更に、45時間を超過してしまう場合は1年間に6回まで、かつ2か月連続でなければ80時間まで付けられる。
実際に残業をどの程度許容するかのスタンスはPJによって異なるが、月に45時間までの残業であれば煩く言われないケースが多く(忙しいPJでは細かい確認はせず、45時間と80時間のボーダーを超過していないかのみチェックしていることも多い)、そもそも残業申請に関するルールも定められていなかった。
ぼくのPJが暇も暇であることは散々書いてきた通りであるが、にも拘らず、ぼくは翌日にやればいいような雑務を見つけては、それを片付けるために15分とか、30分の居残りを少なくない頻度で行った。
それも、ルールがないのをいいことにPMへの事前相談なしに行っていたため、そのことを指して不誠実だと言うのなら、ぼくには言い訳も反論もできない。
PMはフィードバック面談でも具体的なことはあまり言わなかったし、ぼくも自分の悪い評価を前に怖気ついて、評価の理由を深く問い質すことはしなかった。
「特に質問や反論が無ければ、この内容でプリンシパル(=部長)に送ります」
面談には30分の枠を設けていたが、PMは半分以上時間を余らせているタイミングでそのように言った。
自分でB評価を付けた以上「MBOの目標達成度に関しては、掲げた目標に対してコミットできている訳だし、正直もう少し高評価でもいいんじゃないですか」と言うこともできず、そもそもPMの不満がMBOの範囲外にあり、その部分が評価を押し下げている状況ではどうすることもできず、ぼくは「はい、わかりました」と返すことしかできなかった。
こうしてぼくの最初のPJ評価は終了した。
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